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の能率が極めて低下した。そのため普段なら30分でいけるところが6〜7時間かかるというような状況も生まれた。
ケ.地震発生の報が伝わると全国からの救援はかつてない程の高まりをみせた。当日夜間から逐次物資の搬入が活発となり、全員が徹夜で積み下ろし、夜明けとともに避難所への物資輸送を開始したが、全市が被災地のため輸送車の調達は困難な上に、道路事情は最悪の状態でY地区方面への輸送は1往復6〜7時間も要し、ほとんど徹夜で輸送業務にあたったが、なお予定通り進捗を見ず、業務は困難を極めた。翌々日以降になると救援物資はいよいよ送り込まれ堆積する一方なので、梱包を解いて内容を確認するいとまもなく、次から次へと大雑把に割り振り、輸送した。
コ.当初は水道の断水や消化そうの破損により水洗便所の使用が全く不能で、仮設便所の急設を要する事態が認められたので、避難所にはもちろん市内の適当な空地にそれぞれ仮設便所が設けられていった。
サ.各町内から排土・濡れ畳・破損家具類のような災害ごみが一挙に排出され、道路は全く閉鎖され、交通マヒを起こして、救援・復旧活動に大きな支障を与えた。そこで、自衛隊に要請し、災害ゴミの緊急搬出を行い、道路を啓開した。
シ.運搬給水で最も困ったのは、(応援)運転手の地理不案内である。1台に必ず一人の上乗りを必要としたため、職員をそれにとられて困った。
読み終えられてどのような感想を持たれたであろうか。「なるほど、阪神・淡路大震災ではいろいろなことがあったのだなあ」と思われた方も多いのではないかと思われるが、実はこれは、1964年の新潟地震時の応急対策活動の概要を記述したものである(ちなみに、○○には「新潟」、ロロには「信濃」が入る)。スケールこそ違え、30年以上も前のこの地震と今回の阪神・淡路大震災で観察された状況がきわめて酷似しているのに驚かれた方もいるのではないだろうか。
マスコミ関係者や識者の中には、この事実を忘れ、大部分が始めての体験のような報道や発言をする人々がいる。そのような人々は、「過去の教訓の忘却が、今回の阪神・淡路大震災の重大な問題点の一つ」であったことに気づかないのである。
このような問題が生じる最も大きな理由は、過去の災害の教訓(および全国的な実践のノウハウ)を蓄積し提供するシステムや機会が不足しているためと考えられる。
そのような意味で、(2)で述べたことは重要であるが、一方では、この種の教訓やノウハウの獲得を地方公共団体の担当者任せにしないことも重要なことと思われる。そのための専門機関の設立とはいわないまでも、防災関係機関・団体が過去の災害の教訓および全国的な実践のノウハウの蓄積・提供にもっと関心を持っても良いのではないかと考える。
(注)
1)自治省消防庁震災対策指導室:「震災対策の現況」、1995年3月
2)都道府県、市町村において関係機関の間を連絡調整し、総合的、計画的な防災行政を行うための組織。都道府県や市町村の付属機関であるが、単なる調査等を行う諮問機関ではなく、防災計画の実施の推進等の実施機関としての性格も有する。
3)「地方防災行政の現況」(自治省消防庁防災課、1994年11月)をもとに作成
4)自治省消防庁:「災害応急対策システムに関する調査研究報告書」、1986年2月
5)日野宗門:「大規模災害時の危機管理に関する考察」、地域安全学会論文報告集、
1991年5月

 

 

 

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